物販が軌道に乗ってくると、必ず出てくる話があります。
「そろそろ法人にしたほうがいいのでは」
ただ、調べても答えがバラバラです。「利益が800万円を超えたら」「1,000万円から」「早いほうがいい」。数字が人によって違うので、どれを信じればいいのか分かりません。
この記事では、金額だけで決めないための考え方を書きます。物販ならではの事情もあるので、そこも含めて整理します。
税金の計算や、どちらが有利かという個別の判断は、税理士の領域です。この記事は制度の全体像と、判断の材料をまとめたものです。
実際に決めるときは、ご自身の数字を持って税理士に相談してください。無料相談を受けている事務所も多くあります。
- 「利益◯万円で法人化」という目安が人によって違う理由
- 法人にすると何が変わるか(良い面・悪い面)
- 設立と維持にいくらかかるか
- 物販ならではの判断材料
- 法人にしてから「しまった」となりやすいこと
「利益◯万円で法人化」の数字がバラバラな理由

目安の金額が人によって違うのには、はっきりした理由があります。
税金の仕組みが違う
個人事業主の所得税は、もうけが大きくなるほど税率が上がる仕組みです。一方、法人にかかる税は、そこまで大きく上がりません。
だから、もうけが小さいうちは個人のほうが軽く、大きくなるとどこかで逆転します。この「どこかで逆転する」点が、目安として語られている数字です。
その人の条件で逆転する場所が動く
問題は、逆転する場所が人によって動くことです。
- 家族に給与を出せるかどうか
- ほかに収入があるかどうか
- 社会保険の負担がどう変わるか
- 消費税を納める立場になっているかどうか
これらが違えば、有利になる線も変わります。だから「◯万円」という数字だけを見て決めると、外します。
ネットの目安は「よくある条件の人ならこのあたり」という話であって、自分に当てはまるとは限りません。
法人にすると何が変わるか

税金以外の変化も大きいです。むしろ、そちらのほうが判断に効くことがあります。
良い面
- 取引先からの見え方が変わる:メーカーや卸に取引を申し込むとき、法人でないと相手にされない場面があります
- 資金調達の選択肢が広がる:金額が大きくなってくると、法人のほうが話が進みやすくなります
- 決算の時期を自分で決められる:物販は季節で売れ方が変わるので、繁忙期と決算をずらせるのは利点です
- 個人の名前を出さずに済む:屋号ではなく会社名で活動できます
物販の場合、1つ目がかなり大きいです。仕入れ先を広げていく段階で、個人事業主だと門前払いされることがあります。
悪い面
- もうけが出ていなくても毎年かかる税がある:赤字でも払う必要があります
- 社会保険への加入が必要になる:自分ひとりの会社でも対象になります。ここの負担は想像より重いです
- 経理の手間が増える:個人のときより厳密になり、専門家に頼むことが多くなります
- お金を自由に使えなくなる:会社のお金は自分のお金ではありません。勝手に引き出せません
- やめるときにも費用と手間がかかる:作るより畳むほうが面倒です
4つ目は、実際にやってみると効いてきます。売上が入ってきても、それは会社のお金です。自分が使うには、給与という形で決まった額を受け取ることになります。
しかも、その額は年に1回しか変えられないのが原則です。「今月は売れたから多めに」ということができません。
いくらかかるか

お金の話をはっきりさせておきます。
設立のとき
会社の形によって変わります。大きく分けて2つあります。
| 株式会社 | 合同会社 | |
|---|---|---|
| 設立の費用 | 高め | 安く済む |
| 知名度・信用 | 高い | やや劣る |
| 決算の公告 | 必要 | 不要 |
| 役員の任期 | あり(更新の手間) | なし |
| 物販での使いやすさ | 取引先を広げるなら | まずはこれで十分なことが多い |
物販で、まず自分ひとりで始めるなら、合同会社で十分な場合が多いです。あとから株式会社に変えることもできます。
ただし、大きな企業と取引したい、対外的な信用を重視したい、という場合は株式会社が選ばれます。取引先が誰かで決まると考えてください。
毎年かかるもの
設立費用より、こちらのほうが大事です。作った後は、毎年ずっとかかり続けます。
- もうけが出ていなくてもかかる地方の税
- 社会保険の会社負担分
- 決算と申告を頼む費用
- (借りるなら)事務所の家賃
この合計を、法人にして減る税金が上回るかどうか。これが判断の中身です。
「税金が安くなるらしい」だけで動くと、増えた固定費のほうが大きくて損をするということが起こります。
物販ならではの判断材料

ここからが、一般的な法人化の記事にはあまり書かれていない部分です。
在庫が資産として扱われる
物販で見落とされがちなのがここです。
仕入れて売れ残っている商品は、その年の経費になりません。売れた分だけが経費になります。
つまり、年末に大量に仕入れても、「たくさん使ったから税金が減る」とはなりません。手元の現金は減っているのに、帳簿上のもうけは減っていない。この状態が起こります。
法人にするかどうかを考える前に、まずこの仕組みを理解しておいてください。ここを知らないまま「節税のために仕入れる」と、資金だけが苦しくなります。
仕入れ先を広げたい段階かどうか
メーカーや卸と直接取引をしたい場合、法人であることが条件になっていることがあります。
税金の損得ではなく、これを目的に法人化するのは十分ありだと思います。仕入れが変われば、扱える商品も利益率も変わるからです。
アカウントの引き継ぎを確認する
ここは絶対に先に確認してください。
個人で運営している販売アカウントを法人名義に変えるとき、プラットフォームごとに手続きと条件があります。作り直しになる場合、それまでの実績や評価がどうなるかは大問題です。
法人にしてから「アカウントが引き継げない」と気づくと、取り返しがつきません。登記する前に、販売先のヘルプかサポートで確認してください。
支払い方法の変更が必要になる
地味ですが、実務で効きます。
法人の口座を作り、法人名義のカードを作り、仕入れ先や販売先の登録を全部切り替える。法人の口座やカードは、個人のときより審査に時間がかかります。
この期間に仕入れが止まらないよう、段取りを先に組んでおいてください。
判断の順番

迷ったときは、この順で考えると整理しやすいです。
- もうけが安定して出ているか(1年だけ良かった、では早い)
- 来年も同じ水準が続きそうか(続かないなら固定費だけ残る)
- 法人でないとできないことがあるか(仕入れ先・資金調達)
- 増える固定費を、減る税金が上回るか(ここは税理士に)
- アカウントの引き継ぎができるか(登記の前に確認)
1番目と2番目を飛ばす人が多いです。たまたま調子が良かった年に法人化して、翌年に売上が落ちると、増えた固定費だけが残ります。
3番目に明確な答えがあるなら、金額に関係なく法人化する価値があります。逆に3番目が「特にない」なら、急ぐ理由はありません。
法人にしてから「しまった」となりやすいこと

思ったより手取りが減った
社会保険の負担が想像より重い、というのがいちばん多い声です。
個人事業主のときとは仕組みが変わります。会社と自分の両方で負担する形になるので、事前に金額を把握しておいてください。
お金があるのに使えない
会社の口座に残高があっても、それは会社のお金です。
個人の生活費に回すには、決まった額の給与として受け取ります。途中で自由に引き出すことはできません。ここは感覚が変わるので、慣れるまで戸惑います。
経理が終わらない
個人のときより求められる水準が上がります。物販は取引の件数が多いので、負担が大きくなりやすい業種です。
法人にするなら、記帳の仕組みを先に整えてください。手作業のままだと、確実に回らなくなります。
在庫の数え方に苦しむ
決算のたびに、その時点で在庫がいくらあるかを出す必要があります。
倉庫に預けている分、手元にある分、まだ届いていない分。普段から在庫を管理していないと、ここでかなり苦労します。
在庫の管理については、こちらにまとめています。

よくある質問

副業でやっていても法人は作れますか
制度上は作れます。ただ、勤務先の就業規則を必ず確認してください。
また、法人にすると登記の情報は誰でも見られるようになります。代表者の氏名と会社の所在地が公開される点は、知っておいてください。
自宅の住所で登記して大丈夫ですか
制度としてはできます。ただ、上に書いたとおり登記の情報は公開されます。
自宅を出したくない場合は、住所を借りるサービスを使う方法もあります。ただし登記に使えるかどうかは業者によって違うので、契約前に確認してください。
賃貸にお住まいなら、大家さんや管理会社の承諾が必要な場合もあります。
法人にすれば融資が通りやすくなりますか
法人にしただけで通るわけではありません。見られるのは事業の中身と数字です。
融資のためだけに法人化するのは、費用と手間に見合わないことが多いです。

やっぱり個人に戻すことはできますか
できますが、畳むほうが手間も費用もかかります。そのまま休眠させておく場合でも、かかり続けるものがあります。
「とりあえず作ってみる」で始めるものではない、というのはそういう意味です。
まとめ

- 目安の金額がバラバラなのは、有利になる線がその人の条件で動くから
- 判断の中身は「増える固定費を、減る税金が上回るか」
- まず自分ひとりなら合同会社で足りることが多い。あとから変えられる
- 🔴売れ残った在庫はその年の経費にならない。年末の仕入れで税金は減らない
- 🔴登記する前に、販売アカウントを法人名義に引き継げるか確認する
- 会社のお金は自分のお金ではない。給与は原則、年に1回しか変えられない
- 1年だけ調子が良かった年に決めない。安定して続くかを見る
- 仕入れ先を広げるために必要なら、金額に関係なく法人化する価値がある
法人化は「節税の手段」として語られがちですが、実際には事業の形を変える判断です。
金額だけを見て決めず、「法人でないとできないことがあるか」を先に考えてみてください。そこに答えがあるなら、話は早いです。
そのうえで、具体的な損得はご自身の数字を持って税理士に相談してください。ここは人によって答えが変わる部分です。
会社に勤めながらやっている場合、税金まわりで先に知っておくことがあります。


